□サイト名:Blue Sky Candy
 管理人:柚真 様より頂き物

「花火」

ムシムシと暑い夏。
夏休みが半分ほど過ぎたある日の夜。中学2年生の七瀬真紀は学校に忍び込んでいた
始まりは夏休み前の最後の体育の時間だった。
「じゃあ夏休み明けに水泳のテストをしますからね。」
テストの内容は25メートルをクロールで泳ぐことだった。
大体の人は泳げるのだが真紀は水泳が苦手なため夏休み中に泳げるようにしなければならなかった。
でも此処は周りには田んぼなど自然しかない町だった。
プールなど泳げる場所は学校にしかない。
しかし開放はしていなかった。
しばらく考えた末プールに忍び込むことを決めた。

プールの周りには明りが少ないのでとても暗かった。
真紀は周りを見回して人がいないことを確認するとプールのフェンスをよじ登った。
真っ暗なプールを見ていると少し怖くなってきた。
家をでる前にお母さんに怖い話をされてしまったのだった。
昔プールで溺れてしまった子供がいてそれ以来そのこの霊がプールに現れるという感じの話だった。
もちろん信じているわけではないがいざとなると結構怖いのであった。
真紀は建物の影で着替えをした。
そして音がなると困るのでシャワーは浴びずにプールサイドにいった。
そーっとプールに足を入れてみた。
「冷たっ!」
思ったより冷たかったので思わず声を出してしまった。
はっと口を押さえて周りを見渡したが誰もいなかったのでほっと溜息をついた。
プールに入って取りあえずクロールをしてみたが少しも進まずに沈んでしまった。
「ねぇなにしてるの?」
「きゃ!」
真紀はびっくりしてまた大きな声を出してしまった。
もしかしたら幽霊がいるかもしれないとおもい出来るだけそーっと後を見た。
すると後にはカッコイイ男の子が立っていた。
月の光を浴びていてとてもきれいだった。
しばらく見とれてしまっているとまた男の子が話しかけてきた。
「こんな所でなにしてるの?」
「えっあ…その…泳ぎの練習を…。」
「こんな時間に?」
男の子は首を傾げていった。
「2学期の初めにテストがあって…25メートルクロールで泳がなきゃいけないから…。あなたこそなにしてるの?」
「俺は毎日来てるから。」
「泳ぐの好きなの?」
「まぁね。」
しばらくの間沈黙が続いた。真紀はどうすればいいのかわからず取りあえず水面を見ていた。
少したって真紀は思いついたようにいった。
「私に泳ぎ教えてくれない?!」
「は…?」
「お願い!どうしても泳げるようになりたいの。」
じっと見てお願いしてくるので男の子はしょうがなく承諾した。
「あっでも…子供にこんなこと頼んじゃ駄目だよね…?夜遅くまでいたらお母さんに怒られちゃうでしょ?」
「……お前何歳?」
「13歳だけど…?」
男の子は溜息をついた。
「俺も13歳なんだけど?」
「えっうっ嘘?!」
真紀はあわててプールから上がって男の子の前に立ってみた。
プールの中からはわからなかったけど意外と背が高かった。
「ごっごめん…。」
「別にいいよ…。俺は垣本宝。お前は?」
「あ…七瀬真紀。よろしくね。宝くん。」
宝は少し笑って洋服を脱ぎだした。
「えっちょっなにやってんの?!」
真紀はあわてて顔を隠した。
「なにって…。」
そっと手をどけてみると水着を着ていた。
洋服の下に水着を着てきていたのだった。
「なーんだ。びっくりした…。」
「んじゃあ始めるか。」
そういって宝は真紀の腕をひっぱった。
「冷たい!」
「えっ?!あっ悪い。」
宝につかまれた部分がとても冷たかった。
「俺体温低いからさ…。」
「あっそうだったんだ。ごめんね。大きい声だして…。あっ。」
「ん?」
真紀はあわてて口を押さえて小さい声で話し始めた。
「こんな大声で話しててばれちゃったら困るでしょ?」
「あぁそれなら心配いらないぜ。この時間はだれもいないから。」
「なぁんだ。」
といって口から手を離した。
「じゃあ改めて始めるぞ。」
こうして真紀と宝の水泳特訓が始まった。
毎晩8時になるとプールに集まって練習をした。
一週間ほどたつと真紀はプールの真ん中まで泳げるようになっていた。
真紀は学校のこと家族のことなどたくさん宝に話した。
でも宝のことを聞くといつもはぐらかされてしまうのだった。
少し不思議に思ったが他人のことを深く探るのは良くないなと思いそれ以上聞かないようにしていた。

そして夏休み最終日の夜。
真紀は今まで宝に教わったことを思い出しながら泳いだ。
するとついに25メートル泳ぎきることが出来た。
「やったー!」
「よくやったな!」
真紀は嬉しくなって駆け寄ってきた宝の腕をぐいっとつかんでプールに引っ張りこんだ。
「うわっ。ったくなにすんだよー!」
「あははっ!」
2人はしばらく笑っていた。
笑いがおさまると少し沈黙が続いた。
これで夏休みが終わってしまう。そうすると宝ともうあえないのではないかと真紀はおもった。
「ねぇ宝君。」
「ん?」
「夏休みが終わってもあえる…よね?」
それをきいて宝の顔が少し暗くなった。
「あ…ごめん。もう…あえないんだ…。」
「なっなんで?!」
宝は少し悲しげに笑った。
「魔法が…。」
「え…?」
「魔法が解けちゃうんだよ。」
真紀はふと思い出した。
前に宝に腕をつかまれたときとても冷たかった。
プールで溺れた幽霊は体が冷えてしまったとお母さんが言っていた。
たしかその幽霊は夏の間しかいられないとも言っていた。
そして宝が家のことを話さなかった理由、いや話せなかった理由がわかった。
「もしかして…宝君ってゆうれ――」
そういいかけたとき遠くのほうで大きな音がした。
「あっ…花火…。きれー。」
「俺さ…生まれ変わったら花火になりたいな。」
「花火に?」
宝はこくんとうなずいた。
「花火って真っ暗な空を一瞬で明るくするじゃん?俺もそんな風になりたいんだ。」
「宝君ならきっとなれるよ!」
「そうか?」
宝と真紀はまた笑いあった。
「そうだ。私なにか飲み物かって来るね。そこに自動販売機あるから。ちょっと待ってて。」
「あっちょっと真紀まって!」
宝が呼び止めようとしたが真紀は行ってしまった。
5分ほど立って真紀が戻ってきた。
「宝君。オレンジジュースとコーラどっちが――!」
さっきまでいたはずの宝がそこにはいなかった。
「宝君?!宝君?!」
必死に探したが宝は何処にもいなかった。
その時また花火が上がった。
「……きれい…。」
花火が消えた後も空が少し光っている気がした。
まるで花火が真紀に夏の別れを告げているようだった。

ヒトコト
管理人生誕祭ということでフリー配布されていたのを頂いてきました。
もう一つの頂き物、「空を見つめて」は続きになっているようです。
是非そちらも読んでみて下さい。

モドル