□サイト名:Blue Sky Candy
 管理人:柚真 様より頂き物

「空を見つめて」

この空やこの太陽は君には違ってみえているのかな――

秋も深まり少し肌寒くなってきた今日この頃。
みんなざわざわとしている中一人だけ空を眺めている。
それが七瀬真紀だった。
クラスのみんなとは普通に仲が良いが、時々こうして過ごしていた。
そしてみんなと話ながらもちらちらと真紀をみている生徒が榎本透。
なぜ空を見上げているのか、それが気になってみているうちに特別な感情を抱いてしまったのだ。
―七瀬と話してみたい―
そう思っているうちに透はみんなから離れ、真紀の前に立っていた。
真紀は不思議そうな顔で透を見上げた。
何も考えていなかったのであたふたしていたると真紀が窓の外に視線を向けた。
つられて透も窓の外に視線を向けた。
「花火…みたいな」
「えっ?」
真紀はぼそっと言ったため透には聞き取れなかった。
「今なんて?」
「……天気いいねっていったのよ」
「えっあぁそうだね」
そうは言っていなかったような気もしたが透にとっては話を出来ただけでも嬉しかったのであまり気になかった。
「七瀬はなんで時々空をみてるんだ?」
そう聞いた時、真紀の顔が少し暗くなった。
透はしまったと思ったが、すぐに真紀が笑ったのでほっと一安心した。
「空を見てるのが好きなの。晴れた日なんかは特にね」
「確に晴れた日は気持ちがいいよな」
そういって透は再び雲一つない空に視線を向けた。
なので真紀が再び見せた悲しそうな表情には気が付かなかった。
それから二人は最低でも一日に一回は話をするようになった。

そんなある日透は真紀を誘ってプラネタリウムに行こうと計画した。
空が好きな真紀ならきっとプラネタリウムに行きたいだろうと思ったからだ。
「七瀬ー。日曜、暇か?」
「えーっと…」
真紀はかばんの中から手帳を取り出した。
手帳に予定を書いているなんて几帳面だなぁと思いつつ、緊張しながら待っていた。
「うん。暇だよ」
「あのさ…もっもし良かったら…」
緊張でいつものように話せずない透をみて真紀は首をかしげていた。
「…俺と遊びにいかないか?」
「うん。いいよ」
意外とあっさりしてしたので透は驚いた。
そして行ってくれるかもわからなかったのに気持が先走って買ってしまったチケットを差し出した。
「プラネタリウム行きたいんだ。七瀬空好きだからプラネタリウムも好きなんじゃないかと思って」
「うん。昼間の空も好きだけど夜空も好きなの。でもプラネタリウムは行ったことないから凄く楽しみ」
真紀の笑った顔をみて透は嬉しくなった。

日曜日、駅前で待ち合わせた二人はプラネタリウムに向かった。
透はいつもと違う真紀の私服をみて少し緊張気味だった。
「そういえばチケットに『日により色々な特集があります』ってかいてあったけど今は何をやっているのかな?」
「確か『夜空に咲く花』だったと思うぜ。今の季節に花火かよって感じだけどな」
透は笑いながらそういった。
「花…火」
「どうかしたのか?」
「あっううん。なんでもない」
「そっか…?」
真紀が暗くなったような気もしたがあまり追求しない方がいいと思いそのままプラネタリウムに向かった。
プラネタリウムに着き席に座っても真紀は少しぼーっとしていた。
無言のまま座っていると暗くなり、映像が映し出された。
透は真紀の隣でどきどきしていたのであまり内容が頭に入らなかった。
全て終りふと真紀の方をみると真紀の目からは涙がこぼれていた。
「なっ七瀬?どうしたんだ?」
「どうしたって…?」
顔に手を当てて初めて涙を流していることに気が付いたようだった。
「ごっごめん!私帰る」
そういって荷物を持ち早々と行ってしまった。
取り残された透はわけが分からずただただしばらくその場に立ちつくしていた。

次の日透が学校につくと真紀はまだ来ていなかった。
5分ほどすると真紀が教室に入ってきた。
透は真紀の机の前に立ち
「あのさ、昨日…」
そう言いかけたとき真紀が遮った。
「なんでもないから気にしないで」
真紀は目も合わせずに他の女子の所へ行ってしまった。
それからというもの真紀は透を避けるようになっていた。
一週間がたちついに透は我慢ができなくなり、一人になった真紀の前に行った。
真紀はいつものように目を合わせずに立ち去ろうとしたが、透は真紀の手を掴んだ。
「はっはなして!」
真紀のことなんかお構い無しでそのまま引っ張り、裏庭に行った。
「俺なんかしたのか?」
透は少し怒っていた。
「違う。気にしないでって言っているじゃない」
真紀はそういって帰ろうとした。
「じゃあなんで泣いてたんだよ!」
透は今までにないくらい大きな声で叫んだ。
それをきいて真紀は立ち止まった。
「榎本君には関係ないでしょ!」
「あぁないよ。でも…好きな子が泣いてたら気になるに決まってるだろ!」
真紀は驚いた顔でゆっくりと振り返った。
「…笑わないで…聞いてくれる?」
そして真紀は真剣な顔で話し始めた。
「あれは今から大体五年前の夏のこと――」

真紀は夏休み明けの水泳のテストのために練習しようと夜のプールに忍び込んだ。
するとそこには同い年の少年宝がいた。
真紀は宝に頼んで水泳を教えてもらうことにした。
休憩中には沢山のことを話した。
しかし宝は自分について一切話そうとしなかったのだ。
真紀は少し気になったが特に追求しようともしなかった。
夏休みも終わりに近付いてきたある日、ようやく真紀は泳げるようになったのだった。
その時花火が上がった。
宝はその花火をみて「生まれ変わったら花火になってぱっと回りを明るくしたい」と告げた。

真紀がちょっと飲み物を買ってくると言い戻ってくると、宝の姿はどこにもなかった―

「この間は宝君を思い出して無意識のうちに泣いていたんだと思う。今でも宝君の事を忘れられないの。だから榎本君とは…」
透はどんなに言っても真紀にとって宝の存在は大きく、自分は入り込めない。
そう悟った。
「…うん。わかった」
真紀は少し泣きそうになりながらもその場から立ち去ろうとした。
「でも…でももし宝君の事を思い出に出来て、俺でもいいかなとか少しでも思ったら…プラネタリウムまた行こうぜ!
その声をきいて振り返った真紀の目からは涙がこぼれていた。
そしてその涙を拭き取り笑った。
「榎本君、ありがとう!」

長い夏の出来事には勝てないけれどこれから夏はいくらでもやってくる。
人の気持は永遠でありたい。
誰しもそう願っているがそうではない。
人の心は変化していくのだ。
俺たちが生きている限り――

ヒトコト
この作品と「花火」は続き物のようです。
フリー配布ということで頂いてきました。
感情や会話の表現がとても豊かで素敵な作品だと思います。

モドル