□サイト名:Blue Sky Candy
 管理人:柚真 様より頂き物

「平行線とキミへの想い」

平行な2つの線はいつまでたっても交わることが出来ない。
そんな平行線のような2つの思いが叶うことはないのだろうか―――



「悪いんだけど私あなたとは付き合えないです」
「…分かりました。わざわざすいませんでした」
ぺこっと頭を下げ男子生徒はその場から去っていった。
「はぁ…」
残された弥生は軽く溜め息をついた。
今年に入ってもう何度目の告白だろうか。
見た目が少し良いからって告白されるのは迷惑だった。
告白されても付き合うつもりはない。
それに断るのも結構辛いのである。
「また振ったんだ?」
そんなことを考えていると不意に後ろから声をかけられた。
振り向くと同じクラスの佐橋がいた。
「本当にモテるよな柿野」
「…佐橋の方がモテるじゃない」
確かに弥生は人気あるが佐橋はそれ以上人気がある。
人と関わることがあまり好きではない弥生とは違い明るく友好的な佐橋は誰からも人気があるのだ。
弥生はそんな佐橋が苦手だった。
「そうか?でも何でいつも断るんだ?」
「…佐橋に関係ないでしょ」
そう言って佐橋に背を向け教室に戻ろうとしたが手を捕まれ阻止された。
「何か理由があるんだ?例えば…自分から告白したやつじゃないと嫌とか?」
それを聞いた瞬間佐橋の手を振り払った。
「あれ…図星だった?」
ニカッと笑った佐橋を見て馬鹿にされていみたいで無償に腹が立った。
「…いけない?どうせ馬鹿にしてるんでしょ?!」
急に弥生が怒鳴ったので佐橋は驚いたが再び笑顔に戻り言った。
「馬鹿になんかしてねぇよ。俺もそうだし」
今度は弥生が驚いたような顔をした。
自分とは正反対の佐橋がまさか自分と同じ考えを持っているなんて思ってもみなかったからである。
ほんの少し佐橋と話しただけなのに何故こんなにもモテるのか分かったような気がした。

「でもさ…」
もう直ぐで昼休みが終わるため二人は教室へと歩いていた。
「俺達って一生付き合えないんだな」
急に佐橋が変なことを言い出したので弥生は立ち止まった。
だが確かにそうだった。
お互いに自分から告白した相手としか付き合う気がないからそんな二人が付き合うことは有り得ないのだ。
「そうね。でも別にお互いに付き合おうとしてるわけじゃないんだし関係ないんじゃない?」
「それもそうか」
そう言って二人で笑いあった。
弥生は再び歩き出し、人前で笑ったのなんていつ以来かななんて考えていた。
「あっじゃあさ、好きなやつ出来たら絶対に告白しろよな!」
「…好きな人ができたらね」
「約束だからな」
ついさっきまでは苦手だったはずの佐橋だが弥生はいつの間にか心を開いていた。



話をしてみると本や音楽の趣味が一緒だと言うことに気が付いた。
他にも気が合うことが多く、学校にいるほとんどの時を一緒に過ごすようになっ ていた。
佐橋と一緒にいると笑いがたえずそんな明るくなった弥生を見て告白してくる男子は以前にも増して多くなった。



そんなある日、佐橋と弥生は一緒に帰ろうとしていた。
弥生が靴を履き替えるため下駄箱を開けると靴の上に2つに折られた手紙が入っていた。
そこには放課後教室に来て欲しいと書いてあった。
「佐橋、私ちょっと…」
佐橋の方を向くと「俺も」と手に持っている手紙を見せてきた。
佐橋が呼び出された場所は下駄箱、つまりここだったのでまたここで落ち合う約束をした。
そして弥生は教室に行った。



「ごめんなさい。あなたとは付き合えない」
弥生はいつも通り断って教室を出ようとしたが「あの!」と呼び止められたため再び教室に戻った。
「聞きたいことがあるんだけど…いい?」
弥生が頷くと男子生徒は続けて言った。
「柿野さんって竜也と付き合ってるの?」
最初『竜也』が誰なのか分からなかったが、少し考えて佐橋のことだと分かった。
「付き合ってないけど」
弥生は迷わずそう言った。
それは事実なのだから当たり前だ。
「じゃあ…竜也のこと好き?もちろん異性として」
「えっ……」
自分でも何故だか分からないが、今度の質問には即答することが出来なかった。
佐橋のことをそんな風に考えたことがなかったのだ。
しばらく考えてみたもののはっきりとした答えが出てこなかった。
「ごめん、もういいよ」
弥生が何も答えなかったのを肯定ととったのだろうか、男子生徒は悲しそうな顔で笑って教室から出ていった。
それから弥生は質問の答えを考えつつ下駄箱へ向かった。
実は弥生は今まで恋をしたことがなかった。
だからどんな気持ちが『好き』ということなのかいまいちよく分からなかった。
でも佐橋といると楽しい。
それにずっと一緒にいたいと思う。
いつだったか誰かが『好きな人とは一瞬でも離れたくない』と言っていたような気がする。
ということはこの気持ちは『好き』ということなのだろうか。

色々考えながら階段を降りていると下駄箱の方から女の子が叫んでいる声が聞こえてきた。
「何で?今は好きな人いないんだよね?だったら私と付き合ってよ!今はまだ私のこと好きじゃなくてもいつか好きになるかもしれないでしょ?」
どうやら今回佐橋に告白してきた子は相当諦めが悪いらしい。
弥生は佐橋達がいる下駄箱の後ろに行きそっと待つことにした。
「悪いんだけど俺は君とは付き合えないんだよ」
「何でよ?理由を聞かせてくれるまで私諦めないから!」
佐橋は『自分から告白した人としか付き合わない』って断るんだろうなと思っていた。
しかし佐橋の口から出た言葉は思いがけないものだった。
「…好きなやついるから。もう直ぐそいつに告白しようと思ってる」
その言葉を聞いて弥生の胸はズキッと傷んだ。
そして涙が溢れてきた。
弥生はその場にいたくなくて、無我夢中で走り去った。
今分かった。
この気持ちが『好き』なんだと言うことに。
だけど佐橋には他に好きな人がいて、しかも自分から告白した相手じゃなきゃ付き合わない。
初めて人を好きだと思えたのに。
どんなに頑張ってもこの想いは叶うことがない。
そんなこと最初から分かっていたはずなのに佐橋を好きになってしまった。
いや、そんな佐橋だからこそ好きになったのだ。
その時、何かを思い出したのか弥生は急に立ち止まると来た道を再び走って戻り始めた。
「約束…守らなきゃ」 佐橋に想いを伝えなければいけない。
佐橋と約束したのだ。
好きな人が出来たら告白すると。
叶わないと分かっていても佐橋との約束を破りたくない。



学校の校門を入ると佐橋の姿が見えた。
「あっ柿野!」
佐橋は弥生が入ってきたのを見付けると弥生の方に駆け寄ってきた。
「俺柿野が好きなんだ!」「私佐橋が好きなの!」
2人は同時に叫んだ。
しばらく状況がつかめず2人ともポカンとしていた。
そして2人は緊張の糸が切れたのか同時に笑い出した。



「二人が同時に告白すればよかったんだな」
帰り道佐橋がそう言ってきた。
弥生は「そうだね」と頷いてはいたものの意識は繋がれた右手に集中して佐橋が言ったことはほとんど頭に入ってこなかった。
「っぷ!お前何で上履きなんだよ。どっか抜けてるんだよな……弥生は」
「いっ今…って…え?!」
『弥生』と呼ばれた嬉しさと上履きのままだという恥ずかしさが込み上げてきて弥生の顔は真っ赤だった。
「いっ色々考えていたから履き替えるのを忘れてたのよ!」
弥生は繋いでいた手を離し、笑いを堪えながら立ち止まっている佐橋を残して学校へと戻っていった。
しばらく進んでも動き始めない佐橋に弥生は前を向いたまま叫んだ。
「もう早くこないと置いてくわよ!……竜也!」





決して交わることのない平行線。
だがもしその平行線が重なったとしたら一生離れることはないものとなるだろう―――

ヒトコト
柚真さんのサイトの一周年記念で頂いてきました。
柚真さんの書く話は毎回とても綺麗な話で…
とても勉強になります、はい。

モドル