「マルデ水銀ヲ掴ムカノ如キ自然サデ」


まるで水銀を掴むように彼女は自然に別れを切り出した。

口から滴り落ちる銀の雫。

こちらから見える彼女の顔は液体に塗れ泣いているよう。

アナタトハモウヤッテイケナイワと云う口元は何処か機械的で。

嗚呼、昨日までの君とは違うんだねと僕は溜息を吐き、吐き続ける。

早鐘のように鳴り響く僕の心臓に、そう反比例して彼女は止まる。

止まるように喋り続ける。

僕の世界が、ではなく、彼女の世界が。

それが比喩では無いならば、いっそ全てが止まってしまえば良いと僕は思う。

思う、が叶わない。

カタカタと鳴る、歯車のような音。

もう、駄目なの、駄目なのよ。

そう君は口を動かす。

駄目なものか、駄目なものか。

何が足りないのだろう。

僕の願いが叶わないなら、彼女の願いを叶えようと思った。

なんでもしよう。

必要なものはなんだ。

神経ラインか、心臓ポンプか、血液か。

世界を敵に回す決意をした、そんな僕とは裏腹に。

まるで水銀を掴むような自然さで、彼女は僕にキスをした。

アトガキ  webclap!
機械仕掛けの花嫁。
がたがたごとごと。

モドル