「敬礼」

「行って参ります」
 そう言って、僕はその場にいる全員に向けて一度敬礼をした。
 眼前に広がる光景、皆同じように、僕に敬礼している。
 後戻りは……出来ないんだと思う。
 此処にいる皆のために、僕は行かなければいけないのだと思う。
 僕が行かなければいけないんだ。
 僕じゃなければいけないのか?
 それはわからない。
 わからないから、僕が行く。
 だから僕が行く。
 僕が行く。
 辛いこと?
 辛いものか。
 寧ろこれは名誉なことなのだから。
 皆のために犠牲となる。
 皆のための兵となる。
 そして英雄となるのだ。
 それは、名誉なことなのだ。
 本当は行きたく無い?
 本当は嫌だ?
 それはそうだ、当たり前だ。
 誰だってそうだ、誰だってそうだろう。
 でも、だからこそ、無理にでもこう思わなければ、僕は潰れてしまう。
 深呼吸を一つ。
 心の中でもう一度皆へと敬礼し、皆に背を向けた。
 
 
  ◆    ◆  
 
 
「行って参ります」
 そう言った彼に、皆で一度敬礼をした。
 「気をつけて」とか「頑張って」とか、心配そうな面持ちの者もいれば、笑いを堪えてる者もいる。
そんな中彼は僕たちに背を向け、死地へと向かった。
「大丈夫かなアイツ?」
「なんとかなるだろ」
「でも相手はあの鬼の様な野郎だよ……」
「そもそも最初にぶつけたのはお前だろ」
「なにさ、捕れなかったのは何処の誰だと思ってるの?」
「うっるせぇな、だから平等にじゃんけんで決めたんだろ」
 こうして僕らは、割れた花瓶と転がるボールを前にして、職員室へと向かう彼を見送った。
 
 教訓、教室で野球はやめよう。

アトガキ  webclap!
え、まあ、高校の頃に書いたギャグです。

モドル